日々、不動産のご案内をしていると、お客様から「田園都市線沿いで家を探しています」「東横線沿線が第一希望です」というご要望を頂くことが非常に多いです。
つまり、「電車」が軸となって家を探している方が殆ど、ということです。
人気の沿線には人気の駅があり、誰もがそこに住むことを希望する。人気の駅には便利な施設があり、人気のお店があり、ますます魅力を増していく。
一見、当たり前のことの様に思えますが、実はこの仕組みはある男によって創られたものなのです。
世界に類を見ないビジネスモデルを創り上げた男
その人物とは、阪急電鉄をはじめ、阪急百貨店、東宝、宝塚歌劇団などで知られる「阪急阪神東宝グループ」を一代で創り上げた男、小林一三(こばやし いちぞう)です。
彼は戦前より
- まず鉄道を開発し
- その沿線の土地を安く買う
- 沿線の始発や各駅、終着駅に商業施設を開発して利便性を向上させる
- 沿線の土地を分譲し、家を売る
という壮大なスケールのビジネスを展開しました。
↑都市開発を異例の方法で成功させた
「乗る人がいなくて赤字になるなら、乗る客を作り出せばよい。それには沿線に人の集まる場所を作ればいいのだ。」
という小林一三が残した名言の通り、当時鉄道会社が百貨店を経営するなどというのは前例の無い事でしたが、天性の才能と細やかな顧客志向のサービス展開により、阪急百貨店の運営に成功しています。
阪急百貨店にはこんな逸話が残っています。
「阪急百貨店が開店した直後、日本は不景気のどん底にたたきこまれていた。サラリーマンは、昼飯代にも事欠くありさまだったが、目をつけたのが、デパートの食堂のライスである。あれは五銭で、しかも傍に福神漬など、ちょっとついている。ソースでもぶっかけてくえば、腹の虫も満足する。
というわけで、ビル街の昼飯どきはデパートの食堂で、この「ライスだけ」というのが大いに流行した。音をあげたのは、百貨店のほうである。ある日のこと、「ライスだけのご注文はご遠慮くださいマセ」といった貼り紙が出ていたのである。
すると、翌日の新聞に、阪急百貨店の広告が、どかんと出た。「当店はライスだけのお客さまを、喜んで歓迎いたします。」
小林一三(こばやし いちぞう)は、その当座、昼飯時には、必ず食堂にいた。そして、ライスだけのお客には、とくに指示して、福神漬をたっぷりつけ、客席をまわって、そういう客には、じつにあったかい笑顔で、いちいち頭を下げてまわった。」wikipediaより
タイトルの「人に頼り、人に期待するのが一番いけない」という言葉も小林一三の言葉ですが、自らの力で新しいビジネスを創り上げていった人なのでしょう。
↑顧客を徹底的に研究し、百貨店を成功させた(photo by wikiwand)
また当時には画期的だった「分割販売」の手法を住宅に適用し、何十年もかけて住宅を一般人が買える様にしたのです。
実は小林一三は田園都市線、東横線、目黒線、大井町線、池上線などを運営する東京急行電鉄の元となる、田園都市株式会社の経営者でもありました。東武鉄道や西武鉄道なども、全て阪急電鉄を倣ったもの。
つまり、日本の不動産開発モデルは小林一三によって創られたものだったのです。
戦後と小林一三の経済モデル
「土地を安く買って分譲する」という小林一三の経済モデルは、戦後さらにその効果を発揮します。
当時の日本は戦争に負けて焼け野原。一刻も早く復興を遂げなくてはいけません。その為に国、鉄道会社、銀行が三位一体となって開発を進めていったのです。
住宅が供給されれば国民の生活を守ることが出来、税金も取りっぱぐれがない。
住宅購入の為に住宅ローンを利用してもらえば、銀行は金利が儲かる。
家が売れ、沿線の人口が増えれば、鉄道会社も不動産会社も儲かる。
こうして不動産開発は国の一大事業となったのです。
小林一三モデルの限界
この様に小林一三モデルには非常に優れた側面がありますが、このモデルが始まったのは1910年(明治43年)と現在から100年以上も前。そこから日本も大きな変化がありました。
これまでは、ひたすら「新しい家を建てる」戦略でやってきましたが、2000年代になると、もはや都市部には湾岸部などを除き、建物を建てる土地が無くなり始めました。
こうなると僅かに残された土地を各不動産会社が競争して買うようになり、土地の仕入れ値が上がり過ぎたことで、新築物件は一般の方々に手の届かないものになってきたのです。
モノありきからヒトありきに
都市はもはや焼け野原ではなく、成熟した居住環境を提供してくれるものになりました。
また個人の価値観も画一的なものではなく、人によって多種多用なものになりつつあります。
商品は大量生産、大量消費ではなく、各個人の好みにあったものが選別して購入されるようになりました。
住宅も個人の背景やライフスタイル、住宅に求めるものによって、選別されるようになってきました。
こうなると私のような不動産会社も「アリモノを売る」のではなく、「目の前の顧客にピッタリの住宅を選別して提案する」という要素が一気に強まって来るのです。
この変化は、不動産会社にとっては恐ろしいものです。
アリモノを売るときは、販売は至ってシンプルでした。
売る物が決まっているので、アピールポイントは数点に限られ、後は商品に当てはまる顧客を見つければ良かったのです。
これがヒトありきになると、数万の物件の中から、一人の顧客にピッタリの商品を見つける必要が出てきます。
不動産会社の営業マンにとっても、数万の商品の特性全てを知っているわけではないので、この提案は非常に骨の折れるものになります。
近年「不動産テック」として注目を浴びる各サービスは、このような背景によって生まれました。
不動産データベースの整理やビックデータ化、物件提案や価格推定におけるAI(人工知能)の活用は、単なる技術の発展だけでなく、歴史の必然によって生まれてきたものなのです。
>>>不動産テック企業ハウスマートは人材を募集しています!詳細はコチラからご覧ください!!
eye catch:nippon.com